The Cartographers

衝撃的なまでの駄作。ミステリーとファンタジーを組み合わせたかった気持ちはわかるが、全て裏目に出ている。ファンタジー部分の基本は崩壊しているし(手書きの地図でも役割を果たせることは明らかなのに、印刷された地図を探しまわることを全編の柱にしている)、悪役は誰か考えさせるミステリーのはずなのに初登場した瞬間から明らかだし、人々の動機はどれも筋が通らない。ストーリーに力が不足していることを補うため、章の転換は売れない漫画によくある「この時はまだ、ぼくたちは気づいていなかったんだ」で引っ張る方式。

親子関係がテーマなのかと思いきや、他にも立てたいテーマがあるようだし、狭い世界に無理に恋愛関係を持ち込む部分も厳しい。親子関係を書くならあえてミステリーにせず普通にファンタジーにすれば良かったのに、ターゲットやテーマの絞り込みの難しさを示す事例を書いてくれてありがとうという感想。

科学史ひらめき図鑑

大きな発見をした科学者に着目し、問題を解決した取り組み方を紹介してくれる本。数学など普通ならこむずかし過ぎる問題を単純化し、おかしな図で笑わせながら提示する手腕がすごい。何よりも、とても前向きな本。

Guarded by Dragons: Encounters with rare books and rare people

偶然見つけた風変わりな書店でたまたま出会った本。なのにとても身近なことが書かれていて一気に引き込まれる、「果てしない物語」を地でいく不思議な体験になった。

研究者から始まり稀覯本のディーラーになった人が、乾いた筆致でできごとを淡々と書いていくが、とてつもなく笑える驚きの本。

ロートレック荘事件

久々の筒井康隆。「富豪刑事」の方がインパクト大だし、トリックは読みながらわかってしまう(わかるように書いてくれている)が、書きにかける頭の使い方がとてもおもしろい。

55歳からのハローライフ

紹介文には感動を巻き起こしたベストセラー、とあるが、晴れた日でないと読めないような暗い本という印象。5つの連作中編として連載された小説をまとめたもので、それぞれ別の話だが、飲み物で気持ちが落ち着くというテーマでつないである。リアリティが低い部分もあるが、暗い気分にさせるだけの力がある。

今夜、すべてのバーで

アル中の体験を小説に仕立てた本なので、リアルでおもしろ哀しい。医者が患者の前でタバコを吸っていたり、全体に「やぶれかぶれ」な雰囲気が1980年代?を眺めている気持ちにしてくれる。

I will show you how it was: the story of wartime Kyiv

ドンバス情勢から注目され、ロシアの本格侵攻では不可欠の発信源になったウクライナ人記者が、2022年2月から包囲終了までの数ヶ月、Kyiv住人の視点からどう展開したかを書いた本。

SNSを見ていて、自国が侵略された場合、こんなにおもしろく欧米の心を掴む形で効果的に発信できる人がいるだろうかと思っていたが、本も同じ力で書かれていて一気に読める。

記者として見た現場の様子も入っているが、本人の気持ちの動きと家族や友人が柱となっているので、グローバルに臨場感を共有できる書き方。ルームメイトが脚色かと思うほどキャラが傑出していて友人の大事さがよく感じられる。

すごい宇宙講義

同じく多田将さんの本。

10年くらい前の本だが、その時点の最新をわかりやすく伝えてくれる。全体像と論点ごとのイメージが掴めるのがありがたい。何よりも、眠くならず楽しく読める。

核兵器入門

素晴らしくわかりやすい物理学者・多田将さんの本。

「数式を見るのも嫌」という人にも核兵器の物理的メカニズムと核環境を理解してもらいたくて書いた、とあるとおり、数式なしで平易に入門させてくれる。小泉悠さんなどとの対談部分もおもしろい。

成瀬は信じた道を行く

成瀬2冊目。1冊目よりおもしろいのは、作者が慣れたからなのか、前に出てきた人物を組み合わせて再登場させるやり方なのか。脱力で前向きなところが人気の秘密だと思う。