天才

石原慎太郎氏の追悼記事に出てきて、未読だったので読んでみた。田中角栄氏の生涯を「俺」書きで書いたもの。時代に即した形式なのか、古めかしい口調なのと、背景を知っていることが前提になっている辺りは若干読みにくいが、客観的に書かれた伝記よりもずっとおもしろく読めた。

フィクションだと思うし、政治的に相当違う視点からなので、事実とのギャップもあるとは思うが、同じ世界にいた人ならではの本だと思う。

はてしない物語

子供の時におもしろかった映画を今観て、雑だなとの印象を受けることが時々ある。映画も本も、今になってもおもしろいのは、作者の力量なのか、何なのか。ファンタジーの方が時代を問わないとはいえ、やはりすごい。

戦後政治の証言者たち オーラル・ヒストリーを往く

藤山愛一郎について探していて手に取ったが、大変な良書。

著者はオーラル・ヒストリーの第一人者らしく、その趣旨も内容も、また話を聞いた人々を冷静に斬っていくところもおもしろい。日米安保改定を巡る政治家たちの回想を聞き取るところから始めたようで、その部分が厚いが、実は最後の「社会主義者たちとその証言」が一番おもしろい。

著者は研究者として、政治や政官関係を本来の制度趣旨に照らす捉え方で見ていて、野党が機能しないので自民党内の反主流派が野党の役割を果たしたとか、外務官僚が政治家のような動きをしたとか、中国の政治家が社会党をいいように使ったことを、イレギュラーな事象として書いている。ところどころ、日本の戦後政治が成熟したかは疑問だとさらっと書いている。せっかく説得力のある人なので、日本の状況が本来の姿と違うと思うところは、もっと大声で言ってくれていい。

満願

作者の直木賞受賞記念で読んでみた短編集。謎解きのアイデアをいろいろと思いつくのがすごいと思うし、お話としておもしろいものもあるが、とにかく設定が現実離れしている。

会社員をしながら小説家になった人が、仕事をするとその業界の人しか知らないことを必ず知るので小説には役立つ、と書いていたが、その逆なのか。子供時代に読めば違和感なく楽しめたかもと思う。