自分には合わない小説だったが、別々のストーリーをつないで最後にまとめる手法は興味深かった。作者が「ポスト・セカイ系」かどうかという解説から、分類あるいはラベリングする行為について頭を巡らす機会にもなった。
僕には鳥の言葉がわかる
軽井沢のシジュウカラを中心に、鳥が親子、仲間、別の鳥との間で単語を文章にして会話しているという研究を、とてもわかりやすく書いてくれた本。時間も労力もかけた研究を誰にでもわかるように、しかも短文で、さらに笑いを交えて書ける著者の力に驚く。
Hillbilly Elegy
トランプ政権の副大統領となったJ D Vanceが、まだ反トランプな時代に書き、一躍有名になった自身の半生記。本人朗読のオーディブルで。
自分の生い立ちと、それを通じて見えてきたアメリカ社会のひずみをいいスピード感で書いてあり、とてもおもしろい本。ただ、今のVanceと同一人物とは思えない。
The Cartographers
衝撃的なまでの駄作。ミステリーとファンタジーを組み合わせたかった気持ちはわかるが、全て裏目に出ている。ファンタジー部分の基本は崩壊しているし(手書きの地図でも役割を果たせることは明らかなのに、印刷された地図を探しまわることを全編の柱にしている)、悪役は誰か考えさせるミステリーのはずなのに初登場した瞬間から明らかだし、人々の動機はどれも筋が通らない。ストーリーに力が不足していることを補うため、章の転換は売れない漫画によくある「この時はまだ、ぼくたちは気づいていなかったんだ」で引っ張る方式。
親子関係がテーマなのかと思いきや、他にも立てたいテーマがあるようだし、狭い世界に無理に恋愛関係を持ち込む部分も厳しい。親子関係を書くならあえてミステリーにせず普通にファンタジーにすれば良かったのに、ターゲットやテーマの絞り込みの難しさを示す事例を書いてくれてありがとうという感想。
科学史ひらめき図鑑
大きな発見をした科学者に着目し、問題を解決した取り組み方を紹介してくれる本。数学など普通ならこむずかし過ぎる問題を単純化し、おかしな図で笑わせながら提示する手腕がすごい。何よりも、とても前向きな本。
Guarded by Dragons: Encounters with rare books and rare people
偶然見つけた風変わりな書店でたまたま出会った本。なのにとても身近なことが書かれていて一気に引き込まれる、「果てしない物語」を地でいく不思議な体験になった。
研究者から始まり稀覯本のディーラーになった人が、乾いた筆致でできごとを淡々と書いていくが、とてつもなく笑える驚きの本。
ロートレック荘事件
久々の筒井康隆。「富豪刑事」の方がインパクト大だし、トリックは読みながらわかってしまう(わかるように書いてくれている)が、書きにかける頭の使い方がとてもおもしろい。
55歳からのハローライフ
紹介文には感動を巻き起こしたベストセラー、とあるが、晴れた日でないと読めないような暗い本という印象。5つの連作中編として連載された小説をまとめたもので、それぞれ別の話だが、飲み物で気持ちが落ち着くというテーマでつないである。リアリティが低い部分もあるが、暗い気分にさせるだけの力がある。
今夜、すべてのバーで
アル中の体験を小説に仕立てた本なので、リアルでおもしろ哀しい。医者が患者の前でタバコを吸っていたり、全体に「やぶれかぶれ」な雰囲気が1980年代?を眺めている気持ちにしてくれる。
I will show you how it was: the story of wartime Kyiv
ドンバス情勢から注目され、ロシアの本格侵攻では不可欠の発信源になったウクライナ人記者が、2022年2月から包囲終了までの数ヶ月、Kyiv住人の視点からどう展開したかを書いた本。
SNSを見ていて、自国が侵略された場合、こんなにおもしろく欧米の心を掴む形で効果的に発信できる人がいるだろうかと思っていたが、本も同じ力で書かれていて一気に読める。
記者として見た現場の様子も入っているが、本人の気持ちの動きと家族や友人が柱となっているので、グローバルに臨場感を共有できる書き方。ルームメイトが脚色かと思うほどキャラが傑出していて友人の大事さがよく感じられる。
