一時期話題になった本。聞いた人が不快になるような、でも事実であることを書いたとのことだが、言われていたほどcontroversialな印象は受けない。一応いずれも調査やデータを提示してあり、やや当てはめ・一般化に難があるものもあるが、そういう説があるのねと聞けば良いものと受け止めた。
宇宙のあいさつ
懐かしの星新一。子供の時と違い、時代の古さがよくわかるが、次々考え出し、大胆に短くまとめる力には相変わらず敬服する。
ゴールデンスランバー
作者のあとがきを見ると意図的のようだが、ハリウッド映画のような仕立てに時間軸を刻み、(本筋には関わらない)細部も書き込む、という手法をとっている。それが興味深いので最後まで読んだ。手法がおもしろい分、個人では抗えない大きな(国家的な?)悪が存在するというテーマの書き込みは微妙な印象を受けた。
浄土真宗はなぜ日本で一番多いのか
どうもタイトルは後付けのようで、内容は日本仏教の系図と発展史のような本。タイトルの質問への答えはあとがき風の部分に、庶民の宗教(念仏唱えればよい)であって、僧と世俗界に(他の宗派のように)断絶がなく、僧も結婚できたので人的ネットワークが広いから、とだけ簡単に書いてある。
仏教にもともと馴染みがある人には良いかもしれないが、そうでない場合は読むのに若干苦労する。冒頭にある系図に宗派名だけでなく創始者や寺などを書き込んでおけば、参照しながら読めてわかりやすいのにと残念で、編集の重要性を感じる。
天才
石原慎太郎氏の追悼記事に出てきて、未読だったので読んでみた。田中角栄氏の生涯を「俺」書きで書いたもの。時代に即した形式なのか、古めかしい口調なのと、背景を知っていることが前提になっている辺りは若干読みにくいが、客観的に書かれた伝記よりもずっとおもしろく読めた。
フィクションだと思うし、政治的に相当違う視点からなので、事実とのギャップもあるとは思うが、同じ世界にいた人ならではの本だと思う。
はてしない物語
子供の時におもしろかった映画を今観て、雑だなとの印象を受けることが時々ある。映画も本も、今になってもおもしろいのは、作者の力量なのか、何なのか。ファンタジーの方が時代を問わないとはいえ、やはりすごい。
戦後政治の証言者たち オーラル・ヒストリーを往く
藤山愛一郎について探していて手に取ったが、大変な良書。
著者はオーラル・ヒストリーの第一人者らしく、その趣旨も内容も、また話を聞いた人々を冷静に斬っていくところもおもしろい。日米安保改定を巡る政治家たちの回想を聞き取るところから始めたようで、その部分が厚いが、実は最後の「社会主義者たちとその証言」が一番おもしろい。
著者は研究者として、政治や政官関係を本来の制度趣旨に照らす捉え方で見ていて、野党が機能しないので自民党内の反主流派が野党の役割を果たしたとか、外務官僚が政治家のような動きをしたとか、中国の政治家が社会党をいいように使ったことを、イレギュラーな事象として書いている。ところどころ、日本の戦後政治が成熟したかは疑問だとさらっと書いている。せっかく説得力のある人なので、日本の状況が本来の姿と違うと思うところは、もっと大声で言ってくれていい。
満願
作者の直木賞受賞記念で読んでみた短編集。謎解きのアイデアをいろいろと思いつくのがすごいと思うし、お話としておもしろいものもあるが、とにかく設定が現実離れしている。
会社員をしながら小説家になった人が、仕事をするとその業界の人しか知らないことを必ず知るので小説には役立つ、と書いていたが、その逆なのか。子供時代に読めば違和感なく楽しめたかもと思う。
かもめのジョナサン 完全版
最終章が付け加えられたジョナサン。ぐるぐる回る感がさらに増したような印象
ナチス狂気の内幕 シュペールの回顧録
最近では「ナチス軍需相の証言」というタイトルで出ているようだが、ニュルンベルク判決の20年禁錮を終えた著者が1969年に出版したErinnerungen(「回想」?)を、翌70年に日本で出した訳本。
著者はヒトラーに気に入られた建築家で戦時中に軍需担当相を務めたシュペーア。その後、自己に都合の良い書き方をしていると批判されたようだが、「内幕」を見るには非常に良い本。この内情を連合国側が知っていたらどう違ったのかと思う。破壊力や異常さは別として、「組織」だけに着目すると、同じ傾向の組織は容易に成り立つのが怖いところ。
